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アンラッキー・デイズ
『アンラッキーな日々はラッキーな日を創る大きな前ふりである』(J.B.キング)
DATE: 2010/11/15(月)   CATEGORY: 日記
『ネコ騙し辞典~た:タクシー』
その日は仕事も24時を周り、終電はもうとっくに無くなっていた。自宅まで歩いて帰るにはとてつもなく躊躇う距離で、そんな夜私はタクシーを拾う。
アドレス帳に登録されているタクシー会社に電話をかけると、なかなか繋がらず、10コールくらいでようやく途切れ、気だるい中年男性風の声が聞こえた。
「はい!ニシナガ様ですね」
やけにテンションが高いのは無視するとして、番号が既に登録されているのか、中年はこちらから名乗らずとも名前が分かっていた。「違います」と言うのも不自然過ぎ、そのまま今いる場所を告げる。「はいはい!すぐ向かわせます」とハイテンションで言う中年の言葉を信じて、しばし晩秋の寒空の中、煙草を喰わえる。
不規則な動きをする煙を追いかけながらふと周りを見渡すと、少し後ろの方で何かを待つ小太りの男がいた。こんな夜中に何をしているのか、気にはなるがこれといって関わるのもどうかと思い、煙草をもみ消し携帯をいじる。
その小太りの男は見た目はまだ若そうで、茶髪は綺麗にセットされている。目が細く、ホンジャマカの太っている方をお洒落にしたような雰囲気を醸し出していた。彼もまた終電を逃したのか、ただ一人、そこに、いる。タクシーでも待っているのか、あたりをキョロキョロと見渡している。車の通りもまばらなこの場所で何をしているのだろう?ふとした疑問が頭の中をよぎる。
携帯をしまい、話しかけるなオーラを全開にだしてみる。簡単だ。「話しかけるな」と心でエンドレスに念じ続けるのだ。そんな事をしている間に『迎車』と灯された黒塗りのタクシーが来た。タクシーが来たのと同時に雨もやってきた。きっとこのタクシーの運転手は雨男なのだろう。アメオと勝手に命名してやる。
急いで手を上げると、車のヘッドライトが華奢な私を照らしだす。後部座席が目の前の車道に静かに止まり、自動的にドアが開く。
「ニシュナガ様でしゅか?」
「はい」
とにかく、ここから逃げ出したかった。いつもならサ行が苦手っぽい運転手を珍獣でも見つけたかのごとく面白がって観察しているはずなのに、そんな気になんてなれない。なぜならアメオのせいで雨が降り、得体の知れないホンジャマカ風の男に違和感を感じていた。
雨を避けタクシーに乗り込み、ドアが閉まるもんだと思っていると、突然左側から大きな音が聞こえた。ガッ、ドス! 左側を振り向くと、彼が、座って、いた。隣に、あたかも、ツレ感覚で。
アメオは何も気にせず、手慣れた手つきでサイドブレーキを下ろし、アクセルを踏み込み、タクシーを発車させる。
「しぇい」
彼なりの発車の合図なのか、何なのか、気の抜けた声が車内に響いた。
絶句である。
何故か小太りが乗り込んできた。何なんだ? 恐怖を感じて、声を出そうとするも、上擦って思うように出ない。足も震える。車内にはお洒落なホンジャマカとアメオ、で私。何なんだ!
「いつもの所でよろしゅいでしょうか?」
「ああ、助かった」
「しぇい」
どういう事だ? いつもの所とはどこだ? 助かったとは? アメオとホンジャマカは顔見知りなのか? しぇいって何だ?!
いくつもの『?』が頭に浮かび上がる。浮かびあがっては消えていく、煙草の煙のようだ。そういえば先ほどの煙草の煙も見ようによっては『?』の形をしていたのではないか? あの煙はこの事を予言していたのでは? またもやいくつもの『?』が頭に浮かび上がる。めちゃくちゃどうでもいい思惑が、ハムスターが丸いおもちゃで遊ぶかのごとく、私の小さな脳内をかけめぐる。とにかく、このままでは『いつもの所』に連れて行かれてしまう。勇気を出して、声をだすしかないのだ。
「あ、あの、どこに行くんですか?」
そう聞いた。聞いたはずだった。だが、二人とも何の反応もなく前を見つめる。え? 無視? 声出てなかった? 何? 何なんだ?
「あの!」
先ほどの足の震えが嘘のように、急に大きな声が車内に響いた。
「しぇい?!」
アメオが数cm飛び跳ねた。蛙か。
「どこに行くんですか?」
たくさんの『?』の中からもっともな『?』をチョイスした。
「いつもの所でしゅけど?」
バックミラー越しに私を見る目が明後日を向いている。ことごとくアメオが気になる! だがそれは置いといて。
「え? いつもって?」
「ニシュナガ様のご自宅でしゅけど」
一気に血の気が引いた。
この二人が向かっているのは、確実にニシナガ家であった。ということは……。
隣のホンジャマカ風の男は…… 。
さて、どうしよう。降りたい。このままだと私はニシナガ家についてしまう。ニシナガ家。ホンジャマカ風の男とアメオは、ニシナガ家が『いつもの所』なのだ。まずい。非常にまずい。意を決して私はアメオの禿げつつある後頭部に訴えた。
「降ります」
「ふぇ?」
「ここで降ります!」
アメオは、鳩って豆鉄砲くらったらこういう顔なんだろうなって顔をしてながらバックミラーをチラ見する。そのチラ見の顔が面白い。どんなに好奇心をそそる人物なんだアメオ! そんな顔をする人は初めてだ! だがそんな好奇心を打ち消す言葉が、すぐ左から聞こえた。
「僕が送るよ」
そう、ホンジャマカ風の男がツイッターばりに呟く。
「雨もやまないみたいじゃん、どこまで?」
行き先は告げられない。黙ってホンジャマカに視線を向けると、目が合った。
「なんか、ドキドキするな……」
あ、今日、喰われる。そう確信した。と、その時、車内に「もらい泣き」が響き渡る。
「えぇいぃぃやぁぁぁぁきーみーかーらーもらぁいぃなぁきぃ」
携帯から大絶叫する一青さん。アメオがまた数cm飛んだ。天井に頭をぶつけたかどうかは見えなかった。左のホンジャマカ風の男はこの世の終わりの様な顔で私を見ている。
出られない。絶対に携帯に出られない。ポケットの中で壊れるくらい握りしめているが、一青さんは狂ったようにビブラートをきかしている。
「えぇいぃぃやぁぁぁぁきーみーかーらーもらぁいぃなぁきぃ」
こちらも貰い泣きだ。
「お客しゃん?」
今度は私が数cm飛んだ。
「出ないの?」
ホンジャマカが聞く。
「偶然だね。僕と同じ着メロだよ」
そりゃそうだ。あんたの携帯だもん。ニシナガさん。私は、ただ、落ちていた携帯を拾ってかけただけだもん。あんたキョロキョロしてたの、携帯探してたんだろ。そしたらタクシーが来て、それがあんたの常連のタクシー会社で、だからこのアメオも顔見知りなんだろ? お互い、いつもの所でどこでも行けちゃうんだろ。そもそもあんたらにしたら、私が誰なんだ? って事だろう?
ふと気がつくともらい泣きは一段落していた。この携帯、どうしよう。どうしよう。そうだ。窓から投げ捨てよう。そうしよう。私は窓を開けるボタンに指をかけ、押した。急に後ろの窓が開き、ビックリするアメオとホンジャマカ。騒がしい音が車内にも響く。携帯を手のひらサイズにした人ノーベル賞などと考えながら手の中に携帯を隠し、窓の外に手を出す。
そして手を開く。よし! 証拠隠滅!! なんかわかんないけど明日厄払いに行こう、そう思ったと同時にタクシーが止まった。何故だ!
「ニシュナガしゃん、ここで良いでしゅか?」
「ああ、どうも」
どうやら、ここがいつもの所のようだ。最悪だ。そして、窓の外からこのタイミングでもらい泣き。
「えぇいぃぃやぁぁぁぁきーみーかーらーもらぁいぃなぁきぃ」
終わった。もうどうにでもなれぃと思って白目を向いてみたりした。
ふと、ホンジャマカは私の右、窓の外を凝視し、ドアを飛び出した。
「あったぁぁぁ!」
雨の路上に奇跡的に落ちていた携帯。それを拾い上げ大絶叫している彼。まぁ、バレてないならいいけど。安堵の表情で窓越しに話しかけてくるホンジャマカ。
「ほら、着メロ、一緒でしょ?」
「ですね」
彼はアメオにお金を多く持たせ、私の家まで送るように話をしている。
なんて事はない、携帯拾ってかけて、持ち主のもとへ無事返す事ができ、タクシー代ももらえた。それだけの話だ。
「あ、良かったら、連絡先交換しない?」
「運転手さん行ってください」
タクシーは男を一人置いて走り去る。何を勘違いして私にそんな事を。番号交換なんて。
「あ、お嬢しゃん、どこまで行きましゅか?」

「田無!!」

黒い煙を撒き散らしながら、進むタクシーも黒かった。
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| | 2010/11/16(火) 00:18 [EDIT]
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つっちゃん♪ | URL | 2010/11/19(金) 00:28 [EDIT]
お疲れ様です(*^o^*)ホンジャマカ風な男さんの行動にはビックリしますね(笑)「えっ!?こっちに一緒に乗ってきちゃうの??何で??」みたいな(^_^;)しかも着信音は「もらい泣き」。私だったらこの曲のように泣きたくなると思います(^_^;)

nishinaga | URL | 2010/12/11(土) 03:50 [EDIT]
> 非公開サマ

この主人公が女性だって分かりにくいのかな? 本当に俺が体験した話だと思った人が多いみたいで、
色んな人に質問されました(笑)

nishinaga | URL | 2010/12/11(土) 03:52 [EDIT]
> つっちゃん♪サマ

こんな男がいたら怖い。。。
そもそも、この女が悪いんですけどね(笑)

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