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アンラッキー・デイズ
『アンラッキーな日々はラッキーな日を創る大きな前ふりである』(J.B.キング)
DATE: 2010/12/15(水)   CATEGORY: 日記
『ネコ騙し辞典~つ:つっこみ』
この世界に生まれて、果たして自分はどんな意味があるのだろう。

赤色に色づき始めた街路樹の先っぽが、ことごとく欠けていく師走の頃。人々は灰色の目をして家路を急ぐ。冬の匂いが世界を支配し始め、ゆっくりと地球は周り続けていた。

この世界で自分を必要としている人間が何人いるのか。全くもってわからない。

今日も私は4畳半一間、風呂無し共同トイレの我が城にて、ピューと吹く隙間風による寒さから、布団で体を覆い身を守っていた。

あぁ今年も終わるのか。
また無駄に歳をとった。
また無駄に生き延びた。

夜勤の清掃会社でバイトしている私は、出勤前の貴重な時間を効率良く使い、カップラーメンをすする。あと10分で家を出れば間に合う。頭の中で時間を追う。時間に支配された人生っていうのはとてもつまらないモノだ。でも今は支配されている。ゆえにつまらないのだ、人生は。
バイト先でビシビシ働く姿は偽りで、本当の私は、テレビで流行りのアイドルを観て悶々とする、どーしようもない男なのだ。
もちろん現実の世界に愛する相手なんぞいるはずもなく、街ですれ違う女性を「付き合える、付き合えない」と上から目線でジャッジしてしまう。女性という生物は、どれぐらい暖かいのだろうか? 私はふと、18年前に出会ったある女の子を思いだす。


まだ県立高校に通う学生だった私は、それなりに友達もいた。その時の私は広く浅くをモットーに人付き合いをこなし、今よりもかなり社交的であった。成績は良くもなく悪くもなく。クラスでさほど目立たないふっつーの男子であった。
高校1年の夏休み前、友人の黒井から、合コンがあるから来ないかと誘われた。なんでも、隣の女子校と飲み会を開くんだが、メンツが足りないから来いという話だった。
断る理由も無い当時の私は、「行ぐ!!」と、もの凄いテンションで返事をし、当日までウキウキで待ち続けた。私は何にウキウキしているのだろう。女性と話をしたいのか。いや、今でもそれなりにクラスの女子達と話はしている。では、何に? よくわからない胸の高鳴りに頭をひねる。

数日後、その合コンと呼ばれる飲み会は、高校生がお店でお酒を飲めるわけがなく、近所の河原で開催された。飲み物を持ち寄り、お菓子をたんまり買い込み、夕方の河川敷で合コンいざスタート!
既に買出しの間、女子を物色をしていたが、女子レベルは上々で、私はフワフワした心で河原を飛んでいるんじゃないかと錯覚してしまうような気持ちになった。

これが人生初合コン。酒を飲むのも初めてであった。黒井の乾杯の合図で缶ビールを口に運ぶ。恐ろしく苦い飲み物だなと思ったのが最初の印象だ。大人達はよくこんな苦い汁を旨そうに飲むもんだと不思議に思った。思ったが飲み続けた。これが、大人の階段なのかと自分自身に聞いたものの、答えは帰ってくるはずも無かった。1本目の缶ビールを苦々しく飲み遂げ、2本目のカシスオレンジなるカクテルを飲んだ時、「うんま!!」と声を出してしまった。これならいけるとよくわからない確信を持って、私は合コンと言う名の戦争に挑みだした。
緊張を隠すために酒ばかり飲んでいて、女子達をじっくり見ていなかった。このままでは合コンと言う名の一人飲みになる所だった。
「改めまして」と心で唱えながら、ぐるりと一望してみると、隣に座る女の子に目が止まった。ショートカットの彼女はレイちゃんと言い、ケラケラと笑いながらみんなの会話を聞いていた。何故かわからないが、彼女に惹かれた。何かに似ている。なんだろう。そうだ、ペコちゃんだ。あのお菓子のキャラクターのペコちゃんに似ているのだ。私は「どうも」と言葉を交わし、彼女と話始めた。その時の会話を良く覚えていないが、ケラケラと笑っていた彼女が印象的だった。
カシスオレンジを何杯飲んだのだろう、世界がぐわんぐわんと歪み出してきていた。ああ、酔っ払ったのかと気付いた時には、黒井を筆頭に男子も女子もテンションが上がりきっていた。もちろん、レイちゃんも頬を赤らめていた。カワイイ……。酔っ払った目で私は彼女を眺めた。

「一気大会やろうぜ!」と言い出したのは黒井だったか、突然謎のゲームが始まった。それは、一気できたら、女子とキスが出来るという男子学生なら興奮モンのゲームであった。だが、その一気をする飲み物がやっかいで、ジンをカシスオレンジで割った飲み物であった。さらに明らかにジンの配分がおかしいのだ。ジン8割、カシスオレンジ2割。そもそもジュースで割るものであるジンをカクテルで割っている段階で常軌を逸していたのだが、高校生で、さらに初めての飲酒である私は、酒の怖さを知らない。何でもいったる。
「はい!」と手を上げた私は、それを一気に飲み干す。飲んでいる途中で既に食道を逆流するジン達がいた。即効、体が拒否反応を示していた。だが、彼女とキス彼女とキス彼女とキスキスキスキスと妄想し、そのジンを飲み干した。おおおと歓声をあげるみんな。私は飲み干したのだ。そして、隣にいるレイちゃんとキスをした、はずだった……。そう、私の、体は、アルコールに支配され、制御できなくなる。急いで河原にダッシュし、今飲んだもの全てを吐き出した。そして、記憶はそこまでしか無くなった。


レイちゃんとキスをしたのか、頬なのか、口なのか、それすら思い出せない。ただ、彼女の温もりがあった気がした。
「18年前か」そう呟きながら、カップラーメンの最後の一滴を飲み干した。職場に行くべとカバンを持ち、玄関へと向かう。すると、玄関の向こうに誰か立っていた。ドアに付いている除き穴から除くと見知らぬ女性であった。ドアを開くと彼女は私にこう言った。
「久しぶり」
ありえない事に、レイちゃんが立っていた。


私は、会社に行かなければいけなかったが、職場に連絡し、体調不良による欠席を告げた。レイちゃんが我が城にいた。布団の上しか居場所がないこの部屋に何故か入り込む彼女。この部屋の温度が少し上がった気がした。
「なんでここが?」
私が尋ねると、レイちゃんはあの時とかわらずケラケラ笑いながら
「ふふー」
と意味深な返事をした。

これは夢なのかな。どうなんだろう。レイちゃん……。
レイちゃんが僕の布団の上に座る。この今の状況を自分自身に整合性をつけなければ。私は意を決してレイちゃんに聞いた

「すっごい昔にさ、合コンしたの覚えてる? 河原でさ」
「ああ、うん」
「あの時さ「一気飲み大会!」とか言って、俺、一気したの覚えてる」
「うん。覚えてる。してたね。なんか凄く酔っ払ってなかった?」
「そう。酔って、河原で吐いたんだけどさ、あの……、俺、あん時、レイちゃんと、」
レイちゃんが私をマジマジと見つめなおす。
「俺、レイちゃんとキスしたよね」
どうだったのだ?
「あー。うん。したね」
そうか。私はやっぱりしたのか。だとしたら、どこに?
「口?」
「え……、何が?」
「いや、口だったのか、ほっぺたにチュって感じだったのか、どっちだったんだろうなぁって思って……」
「口だよ……」
そうか、やっぱり俺はレイちゃんとキスできたんだ。良かった。安心していると、レイちゃんが話し出した。
「もう行くね」
「え?」
と思うやいなや、レイちゃんは部屋を出て行った。

追いかけて、ドアを開けると、そこにはもうレイちゃんの姿はなかった。
何だったのだろう。私は一人腑に落ちない感じでいた。と、そこに携帯電話がなった。画面には友人の『黒井』の文字。私はボタンを押した。
「もしもし」
「おう久しぶり。元気?」
「うん。黒井は?」
「全然元気」
相変わらず、黒井は元気だ。
「あのさ、今度年明けにさ、同窓会あるから帰って来ない?」
「ああ……そうなんだ。ああ、うん。いや、ちょっと厳しいかも……」
「そっかー」
「ああ」
同窓会か。みんな私の事を覚えているだろうか?
「ごめんね」
「いや、いいいい」
「あ、そういえばさ」
私は黒井に尋ねる。
「レイちゃんって覚えてる?」
「レイちゃんって、あのミッションの?」
「うん、レイちゃん」
「ああ、覚えてるよ」
「あっそう。あのさ、さっきさ、ウチに来てさ」
「え?」
「ウチに来たの。最初わっかんなかったけど、アレ絶対レイちゃんでさ。俺もビックリして……」
「人違いっしょ?」
「いや、レイちゃんだったよ」
「なんで?」
「合コンの事覚えてたもん」
「うっそ……」
何故か、黒井の声のトーンが落ちた。なんなんだろう。
「どうした?」
黒井が落ち着いた声で話し出した。

「レイちゃん、ちょっと前に死んだよ」

その後の黒井の声は良く聞こえなかった。
どうやら、先日、レイちゃんは交通事故でなくなったのだと言う。地元ではすでに葬式が行われており、私にまで連絡は来なかったのだと言う。
なんなんだ? だとしたら、なぜ、さっき、彼女はこの部屋に来たんだ? なんなんだ?
私は携帯を布団に投げつけ、座り込む。
彼女は私に何を言いたかったんだろう。キスしたよって事を教えてくれただけで、他には何も……。

幽霊。そうか、彼女は私に生きている喜びを教えてくれたのかな。こんなどうしようもない俺だけど、レイちゃんみたいな子とキスができたって。僕の唇にレイちゃんの唇が触れたんだ。あの柔らかそうな、プリンとした可愛らしい唇と、ガッサガサなたらこ唇が触れ合ったんだ。
なんか、元気が出てきたような気もするが、この心霊現象を飲み込むまでにはいかなかった。ふと、レイちゃんが座っていた布団に紙が落ちているのを発見した。私はその紙を開く。それを読んだ私はうまく状況が読み込めなかった。「霊ちゃん」と書かれてあるその紙……。

その時、ドアが開き、レイちゃんが立っていた。え? え? え? 何? 何なの? と思ったその時、レイちゃんの奥から一人の男が出てきた。
「黒井……」

黒井は手にA4サイズのスケッチブックを持っていて、そこにはこう書かれていた。
「ドキリ」
ケラケラと笑うレイちゃん。隣で豪快に黒井も笑う。私は何がなんだかわからなくなったが、段々状況が飲み込み始め、へへ、へへと変な笑い方をしていた。彼らは実家から私の部屋の住所を聞いて何年か振りに尋ねてきてくれたのだと言う。
もちろん、レイちゃんは死んではいなかった。
「死ぬわけないじゃーん」
ケラケラ笑うレイちゃん。18年経っても可愛かった彼女。私はある事に引っかかっていた。あれは本当なのか?
「レイちゃん」
「ん?」
「俺、キスしたよね。18年前。河原で」
「ああ、いや、どうだろう?」
「えええ?! それも嘘?」
「だってそんなの覚えてないしー」
はぐらかすレイちゃんの横で黒井が
「お前、そんなのどうでもいいだろ」
と笑う。レイちゃんは子悪魔で、黒井が鬼だ。鬼だ、悪魔だ……。はああ。そうか。
だが、嬉しかったのは、彼らがここに来てくれたこと。彼らの中で私は存在していた。私はドッキリの対象として必要な人間だったんだ。ドッキリの対象として必要な人間。なんて価値の無い人間なんだろう。それでも良い。私は胸を誇って言う。
「俺はドッキリの対象として必要な人間なんだ!」
レイちゃんがケラケラと笑う。黒井も笑う。ふと私はレイちゃんの足元を見る。当たり前のように足がある。「霊ちゃん」な訳が無い。何が「霊ちゃん」だ。ダジャレかい! そう。足があるんだ、足が……。ん?!
「どした?」
黒井が私に尋ねる。黒井の足元も見る。足が……、ある……。
「どうしたの?」
二人に私は言い放つ。

「ってか、土足だし!!!」

二人とも、畳に土足で上がりこんでいた。
ケラケラ笑うレイちゃん。豪快に笑う黒井。まあ、いいけども……。ってか、そのドッキリの『ッ』の部分『シ』になってたからね! 『ドシキリ』になってたよ! って、そんなのもうどうでもいいわ!

一笑いし終えた私達は、3人で今夜の鍋の材料を買出しに行く。昔もこういう事があったな。18年前と変わったといえば、ビールが美味しいと思えるようになったぐらい。あとは何一つ変わってない。

レイちゃんとキスしていなくても、何故か、唇が暖かく感じた。そうか。いっぱい喋ってるからか。街はクリスマスのイルミネーションに輝く。この街はこんなにも明るかったのかと、今頃になって気が付いたのだった。
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| | 2010/12/17(金) 01:57 [EDIT]
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nishinaga | URL | 2010/12/22(水) 13:33 [EDIT]
>非公開サマ

ありがとうございます。
このコメントで励まされました。
沢山の方が支えてくれてるんだなと感じました。
喜怒哀楽の人生、自分に与えられた使命を探り、見つけ、楽しい道を歩んでいけたらなと思います☆

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